みどころ

第5章
物語をつたえる埴輪

埴輪は複数の人物や動物などを組み合わせて、埴輪劇場とも呼ぶべき何かしらの物語を表現します。ここではその埴輪群像を場面ごとに紹介します。例えば、古墳のガードマンである盾持人(たてもちびと)、古墳から邪気を払う相撲の力士など、多様な人物の役割分担を示します。また、魂のよりどころとなる神聖な家形埴輪は、古墳の中心施設に置かれ、複数組み合わせることで王の居館を再現したのではないかと考えられます。このほか動物埴輪も、種類ごとに役割が異なります。この章の動物埴輪は、従来にないダイナミックな見せ方で展示します。

埴輪 力士
鶏形埴輪
鹿形埴輪

埴輪 力士

神奈川県厚木市 登山1号墳出土 古墳時代・6世紀
神奈川・厚木市教育委員会蔵(あつぎ郷土博物館保管)

坊主頭で頬は赤く、耳飾りを付けた男性です。まわしをしめており、おそらく力士でしょう。手を上げて四股を踏むポーズなのかもしれません。『日本書紀』によれば、初めて相撲をとったのは古墳時代の豪族である土師氏(はじし)の祖先で埴輪の考案者でもある野見宿禰(のみのすくね)だとされています。当時、力士は邪気を払う重要な役割を持っていました。

鶏形埴輪

栃木県真岡市 鶏塚古墳出土 古墳時代・6世紀
東京国立博物館蔵

胸をはり頭と尾をぴんと立て、丸い目が特徴的な鶏で、鶏冠(とさか)と口ばしの下の肉垂(にくずい)を赤く塗って羽毛を表現します。埴輪では夜明けに鳴く雄鶏が多く見られます。古代では、鶏は邪悪なものが暗躍する闇夜を打ち払い、光をもたらす神聖な動物でした。家形埴輪の近くで出土することが多く、魂を守る役割を担っていたのかもしれません。

鹿形埴輪

静岡県浜松市 辺田平1号墳出土 古墳時代・5世紀
静岡・浜松市市民ミュージアム浜北蔵

後ろを振り返ったポーズをとる、いわゆる「見返りの鹿」です。大きな角を持った牡鹿で、胴部には焼く時に空気を抜く穴があけられています。鹿の埴輪は犬や人物とセットになって狩猟場面を構成し、この古墳からも弓を持つ人物が出土しました。後の世の武士が愛好した鷹狩のように、狩猟は常に権力と結びついていました。