みどころ

第3章
埴輪の造形

埴輪が出土した北限は岩手県、南限は鹿児島県です。日本列島の幅広い地域で、埴輪は作られました。それらの埴輪は、当時の地域ごとの習俗の差、技術者の習熟度、また大王との関係性の強弱によって、表現方法に違いが生まれています。その結果、各地域には大王墓の埴輪と遜色ない精巧な埴輪が作られる一方で、地域色あふれる個性的な埴輪も作られました。ここでは各地域の高い水準で作られた埴輪や、独特な造形の埴輪を紹介します。

重要文化財 船形埴輪
馬形埴輪
重要文化財 埴輪 天冠をつけた男子

重要文化財 船形埴輪

宮崎県西都市 西都原古墳群出土 古墳時代・5世紀
東京国立博物館蔵

外洋を航海する準構造船を写した埴輪です。船べりには(かい)を受けるための軸受けが左右6個ずつ付きます。軸受けの傾斜する方向が船尾、その反対が船首です。船内は仕切られ、当時の船の構造がよくわかります。古墳時代、船は波濤を越えた交流に用いられるだけでなく、死者の魂の乗り物とも考えられていました。

馬形埴輪

三重県鈴鹿市 石薬師東古墳群63号墳出土 古墳時代・5世紀
三重県蔵(三重県埋蔵文化財センター保管)

馬は、古墳時代に朝鮮半島から渡来して急速に普及し、農耕や軍事、儀式などに用いられました。馬形埴輪の大半は、数多くの馬具を身に付けた「飾り馬」です。この埴輪も飾り馬を忠実に模していますが、頭部の表現が独特です。被りものか、たてがみを垂らした状態を表したと思われ、全国的に見ても類例のない珍しいものです。

重要文化財 埴輪 天冠をつけた男子

福島県いわき市 神谷作101号墳出土 古墳時代・6世紀
福島県蔵(磐城高等学校保管)
写真:いわき市教育委員会提供

美豆良(みずら)を肩まで垂らしたヘアスタイルに、両手を前に捧げ胡坐(あぐら)をかいて座る端正な顔立ちの男性です。三角形の冠のひさしの先端には7つの鈴が上下に揺れています。左腰には大刀と弓を射る時の防具である(とも)を下げた盛装のいでたちです。衣服や冠、頬は赤く彩色されており、威儀(いぎ)を正し拝礼する若き王の姿をほうふつとさせます。